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2005年7月8日<news>

2005年都議会議員選挙:「予想された結果」という落とし穴[2005/07/08]

1. はじめに
2005年7月3日、東京都議会議員選挙が行われ、その結果は翌日の新聞を賑わした。 しかし、すでに3〜4日も経つと、 もうすっかり都議会選挙の話は過去のものとなり、 新聞やテレビなどのマスコミのニュースからは姿を消し、 次なる<新しい知らせ>が世間を騒がせている。

東京都議会議員選挙(2005年7月3日)の投票率は、 43.99%で史上2番目に低い結果となり、 前回の選挙を下回る低い水準だった。議席数では、自民党が3減らして48、 民主党16増やして35,公明党が2増やして23、共産党が2減らして13、 生活者ネットワークが3減らして3となった。

この結果だけ見ると、
 (1)  有権者10人中、5〜6人が選挙に行かなかった。
 (2)  民主党が議席数を大幅に増やした(+16)。
 (3)  自民党は、議席を3しか減らさなかった。
という3点が目立つが、上位4政党の得票数と得票率で2001年の都議選と比較すると、 少し違った状況が見える。

  2001年都議選2005年都議選
 自民172万票 36.0%134万票 30.7%
 公明  72万票 15.1%  79万票 18.0%
 民主  65万票 13.5%108万票 24.5%
 共産  75万票 15.6%  68万票 15.6%

すなわち、
 (4) 得票率を減らしたのは、自民党のみ(マイナス 5.3%)。
そして、今回、連立する公明党との選挙協力によって、公明党議員の出馬しない 選挙区では、公明党支持者が自民党支持として協力した、という情報が流れてい ることを考慮すると、公明党の支持なくして自民党単独で都議会選挙を戦っていたら、 結果はもっと悲惨なものになっていたことが想像できる。

2. 「都立大」の請願や陳情に反対し、「首大定款」を支持した都議会議員の当落
すでに、大学教育に携わる者と政治 の中で、「都立大」の請願や陳情に反対し、 「首大定款」を支持した都議会議員を紹介した。今回の選挙の結果、 これらの議員は、なんと1名の不出馬の議員を除き全員が当選したことが判明した。 逆に「都立大」の請願や陳情に賛成し、 「首大定款」に反対した都議会議員の内、2名は今回の選挙に出馬せず、 バトンタッチする予定だった議員2名は落選した。

東京都民をかなり昔にやめてしまった私としては、投票に行けなかったことは、 非常に残念であり、今回の結果は、まったく受け入れがたい事実である。 なぜ、このようなことになるのか、以下に簡単に私の考え方を紹介する。

3. 東京都という<ムラ>
衆議院や参議院と異なり、東京都における議会政治は、 かなり様子を異にする、と感ずる。これは、 都議会や都議会のさまざまな部会を実際に傍聴すれば、 一目瞭然である。今回の選挙で、一人勝ちをしたかに見える民主党は、 一般的に「自民党よりも少し革新的だ」という印象を与えているようだが、 東京都議会の場合、必ずしもそんなことはない。内部では、 さまざまな意見の持ち主がおり、 正面切って石原慎太郎東京都知事との<仲よし関係>を公言する議員もいる。 そして、都立大の陳情・請願や首大定款の議論の際に明らかになったように、 「都知事の政策を党として支持する」と決定していたのが民主党であった。 なお、民主党は、2003年衆院選、2004年参院選における東京での比例代表では、 39.9%、38.9%の得票率だったが、今回は24.5%だったことを考えると、実は、 それほど大勝したわけでもない。

今回の都議会選挙で自民党を支えたのは、公明党である。 そして、公明党は、今回の選挙で23人の公認候補が全員当選という快挙を成し遂げた。 組織票を投じることのできる政党は、強い。公明党は、正にその代表だ。 今回の都議会選挙のイメージキャラクターに抜擢され、ポスターに登場していた のは、「パパイヤ鈴木」というタレントだが、創価学会員だったという噂もある。 なんで?

社会党は、ご存知のように社民党となり、ほとんど支持者がいなくなってしまった。 そうすると東京都議会で、野党と呼べるのは、共産党と生活者ネットなどの小さ な地方政党だけなのだ。 私の一方的な思い込みかもしれないが、 やや誇張して表現するなら、東京都議会という<ムラ>では、 自民党、公明党、民主党の差はほとんどなく、 みんな仲よく都知事のバックアップをしているのだ (<ムラ>の掟に逆らうものは、村八分にされる)。 そんな実態を知らずに投票した人もいるだろうし、 逆に、そんな実態を知っているからこそ、 選挙に行くことがばかばかしく思えた有権者もいるだろう。 一方、何も考えずに、党員としての義務を果たした有権者もいる。

4. 東京都議会選挙で考えたこと
一番の問題は、低い投票率(43.99%)だ。 すでに多くの所で指摘されているように、 有権者の半数以下の人しか選挙に行かない、 というのは大問題である (日刊ゲンダイ曰く、「この国は何回どんな選挙をやっても、何も変わらない」(7/5))。 「選挙権」というのは、人類の歴史の中で戦い取られてきた権利だ。 しかし、今の日本では、そんなことをまともに考えるような大人は少ない。 むしろ、日本に生まれて、大人になったら自動的に与えられた選挙権、 というイメージなのではないか。 一般化して言うなら、ある国に生まれて、大人になったら自動的に与えられる選挙権、 というのは、価値が少ないのである。

ある物を入手するにあたっての苦労の度合いは、その物の価値と比例する。 逆に言えば、労せずに得るものは、価値が低い。 情報に当てはめて考えれば、苦労の度合いを e とすると、 e の値が小さければ小さいだけ、IV(情報価値)も小さくなる(情報価値の第2法則)。 現代の情報化社会では、より多くの情報を容易に入手できる方向へと進んでい ることは明らかなので、情報価値はますます低くなる。 情報価値が低くなれば、人々は驚かなくなる(無感動な世界の成立)。 驚きのないものは、面白くない。 面白くないものは、やりたくない。 これが、情報化社会の典型的な思考方向である。

では、「選挙権」の価値の分からない人達が激増してしまった現代社会では、 どうしたらよいのか? それには、2つの方向性が考えられる。

  (A)  もっと簡単に投票できるようにする。
  (B)  選挙権を放棄した人達の地域社会を作る。

(A)  の方法がこれから活発に議論されるようになるだろう。 例えば、「ワンクリック」で投票できるシステムを構築する、 といった流れだ。コンピュータ、いや、携帯電話やデジタルテレビなどの 情報機器を利用して「簡単に」投票できるシステムの構築である。 しかし、そのためには、セキュリティ上のさまざまな関門がある。 有権者の個人情報を集中して管理するシステムが必要となり、 高精度で「簡単」な個人の認証のためのシステムが要求される。
携帯電話で、ワンクリックで投票できるようなシステムができたら、 投票率は急増するだろうが、 「情報化社会は、管理社会を加速させる」ことを忘れてはならない。 個人情報の集中管理がなされなければ、このようなシステムを 構築することはできないからだ。そして、どんなシステムにも穴がある。 昨今の個人情報の流出騒ぎの多さを思い出して欲しい。 あっという間に、個人情報は漏れる可能性があるのだ。 その時の被害の大きさを考えると、「ワンクリックで投票できるシステム」 が実は、とても危険なシステムとなりうることを示唆している。 さらに、集中管理できる情報化社会は、政治家にとっては非常に都合のよい システムである。情報をコントロールすることが、容易にできる可能性があるか らだ。

(B)の「選挙権を放棄した人達の地域社会を作る」というのは、 ブラックジョークである。選挙権のありがたさ、民主主義を成り立たせる根幹の 選挙権の意味が理解できない人達には、選挙権の無い人達の地域を作って、 そこで暮らしてもらう。その地域の政治家は、その地域の人達によって選出され た人達ではなく、その地域で政治家になりたい人達の中で、くじ引きで決める。 「選挙権のありがたさ」が分かっている人達だけで、選挙は行うべきである。
お笑いになるかもしれない。しかし、世の中には、「自分でものを考えて行動す るよりも、人に考えてもらったことを命令されてやることに抵抗を感じない人達」 も存在するようなのだ。そのような人達が、特定の指導者によって、一斉に同じ 候補者に投票するようなことが選挙で行われては、公平な民主的選挙とは言いが たい。そういった好ましくない状況を回避できる1つのやり方として、考えてみ たのが、このブラックジョークである。

(A)を実現するには多くの問題がある。(B)のような策は、 非民主的な隔離政策との誹りを受けることは目に見えているので、しょせん、 ブラックジョークでしかない。 それにもかかわらず、 世の中は (A) の方法を模索する方向へ突き進んでいくだろう。ますます危険で、便利な社会へ。 これを止める方法は、果たしてあるのだろうか?

自民党が議席を失い、民主党が伸びる、公明党は堅調というシナリオは、 「予想された結果だった」という論調がある。しかし、 東京都議会の場合は、自民党も民主党も公明党も、 すべて原則、都知事賛成派である。 改革派であることを強調する民主党や公明党の議員は存在するが、 党としての姿勢は反知事派ではない。それは、 前回の知事選挙で300万票を獲得した現都知事に対しての<恐れ>であり、 他方は、その<人気>にあやかりたい、という発想ではないか?

浜渦副知事問題で、都知事と対決した都議会はどこへいったのか? あの「日の丸君が代問題」で教育庁を率いていた横山氏が、 後任の副知事になるというのだから、 都政は何もかわらないだろう。

この都議会という<ムラ>は、非常識な世界である。 教育や福祉の大幅な切り捨てを行い、数々の問題発言を繰り返す知事。 ついに、人種差別やその他の差別に関する国連の専門官 Doudou Diene 氏 が今週末、日本にやってくる(2005年7月1日 The Japan Times)。 Doudou Diene 氏は、石原都知事との会見を求めている。 本来、良識ある行動をとって、国連の専門官とともに 「差別撤廃へ向けて努力します」 と発言し協力すべき立場にあるのが東京都知事であるはずだが、 どのような対応を示すだろうか、注目したい。

世界有数の巨大都市「東京」。しかし、そこにあるのは、あまりにもゆがめられた議会。 「トップダウン」の「改革」を旗印に、指導力(?)を発揮している都知事。 この現実を変えられる第一歩が、選挙だったはずだが、 そこで出てきた「予想された結果」は欺瞞に満ちている。
ひょっとして、「東京」は、 すでに上で述べたブラックジョーク(B)の世界なのかもしれない。


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