だまらん

jok ← Junji Okamoto
top[2005/04/11][2005/04/17 改訂][2005/04/24 スピーチ全文とコメントへのリンク追加]

2005年4月11日<NEWS>

4月6日に行われた「首都大学東京」の入学式に関しての報道総括。 (スピーチ全文とコメントはこちら

読売,朝日,日経,共同通信の記事がネットから参照できたので,それを比 較してみた。まずはタイトルから(なお,新聞記事のタイトルは,ネット上 の記事と異なることがあるのであらかじめおことわりしておく。また,新聞 記事のタイトルは,その版によっても異なることがある)。[毎日と東京新 聞の記事も発見したので,4月17日に追加]

読売首都大学東京、1期生2300人が入学式
朝日「強い個性に期待」と石原都知事 首都大学東京で入学式
日経都立4大学統合の首都大学東京で初の入学式
共同首都大学東京で初の入学式 4校統合、石原知事ら出席
毎日首都大学東京:入学式 晴れの第1期生、2380人−−知事、激励 /東京
東京出会いの春(■第一期生2400人入学式に出席 首都大学東京)

コメント(1):[2005/04/11][2005/04/17改訂]

大学の入学式だけではニュースバリューは無い。しかし「新大学」といえばそれなりに価値がある。ましてや,4つの大学を廃学にして,1つの法人の元に新たに5つの大学を設置したとなればそれだけ注目が集まる。ニュースのタイトルの内,たんなる事実の列挙から一歩踏み込んだものは朝日の都知事の言葉を引用したものだけ。

知事の言葉の引用を各新聞社別に並べてみた。

読売新大学の“生みの親”でもある石原慎太郎知事は「諸君の入った大学は今日から始まる。学生諸君で素晴らしい大学にしてほしい。感性をみがくための協力は惜しまない」と激励した。
朝日入学式で石原慎太郎都知事は「社会が本当に期待するのは強い個性をもった人間だ。こんな大学、世界中にない。学生諸君がすばらしい大学に育ててほしい」と述べた。
日経式には石原慎太郎都知事が来賓として出席。「東京には博物館など世界にない集積があり、学生には便宜を図る。存分に何をやってもいい。けんかや議論をやったらいい。大きな人間に育ってほしい」と激励した。
共同なし。
毎日石原慎太郎知事は「先生をばかにしても、けんかしてもいい。堂々と議論して、あなた方の責任で人生を築いてください」と激励した。
東京石原慎太郎都知事は「未曽有のことを思いつく発想力を持った人間になって世の中に出てほしい」と祝辞を述べ た。

コメント(2):[2005/04/11][2005/04/17改訂]

共同通信配信のニュースにはないが,後の5社のニュースには直接引用の知事の言葉が入っている。そしてそれがそれぞれことなるのだ。
「諸君の入った大学は今日から始まる。学生諸君で素晴らしい大学にしてほしい。感性をみがくための協力は惜しまない」 という読売の引用には,<新大学の“生みの親”でもある石原慎太郎知事>が<激励した>言葉としてメタ言語的(1)なコメントがつけられている。引用符で囲まれた<“生みの親”>には,文字通り知事の強権で作り上げたという皮肉を読み取ることもできる。日経と毎日は「激励した」という言葉を使っているが朝日は単に「述べた」という引用を示す形をとっている。さて,知事のお言葉に対して,こちらからも簡単なコメントを付けておこう。

(a-1) 諸君の入った大学は今日から始まる。4月1日から都立の4大学の資産を部分的に引き継いで始まったというのが正しい。
(a-2) 学生諸君で素晴らしい大学にしてほしい。学生だけでは大学は変わりません。教員も職員も大学にはいるんです。
(a-3) 感性をみがくための協力は惜しまない。大学では学問をやることを期待していない様子。さもありなん。「感性(2)をみがくための協力」とは,いったい何?
(b-1) 社会が本当に期待するのは強い個性をもった人間だ。必ずしもそうではないと思いますが。文句を言わずに働く企業戦士も欲しいという声もあるかな?
(b-2) こんな大学、世界中にない。これって誉め言葉? 皮肉? 「都市教養学部」なんてどこにもないけど,誰にも分からない 「都市教養」を看板にした恥知らずという声もあり。
(b-3) 学生諸君がすばらしい大学に育ててほしいしつこいようですが,大学は学生と教員と職員が作っているのです。
(c-1) 東京には博物館など世界にない集積があり、学生には便宜を図る。最近はナノテクを全面に出せなくなって,もっぱら「東京の文化」,「日本の文化」を語るようになりました。
(c-2) 存分に何をやってもいい。その心意気はいいのですが,そのような教育研究環境が整備されているかどうかが問題。
(c-3) けんかや議論をやったらいい。議論はいいですが,ケンカをすると処分されますよ。まあ副◯◯のようにケンカしても許してもらえちゃうこともありますが。
(c-4) 大きな人間に育ってほしい。そうですね。権力にものを言わせて人の話を聞かないで「改革だ!」と叫ぶ人は大きな人間ではありません。
(d-1) 先生をばかにしても、けんかしてもいい。この方は,よほど「大学の先生」に対して怨念を持っているのでは?
(d-2) 堂々と議論して,あなた方の責任で人生を築いてください。そうですね。「堂々と議論」する前提は,まず「相手の話をきちんと聞いて理解する」ことから始まります。くれぐれも「人の話を聞かずに自己主張だけする」人間にはならないように!
(e-1) 未曽有のことを思いつく発想力を持った人間になって世の中に出てほしい。「発想力」を裏打ちする知識を大学では身につけて欲しいものです。ちなみに「未曾有のことを思いつく発想力」は,「強制されない」「個性を尊重」した環境(=「出る釘を打つ」ようなことをしない自由な気風の中)で養われるはず。東京都では小中高とそのような配慮の元に教育を実践されているのでしょうか?

コメント(3):[2005/04/11][2005/04/17改訂]

6紙の報道のその他の特徴を以下に簡単にまとめてみた。一番批判的でまともなのが朝日。癖のないのが共同。ちょっと皮肉っぽいのが読売。どうしようもないのが日経,というのが今回の私の総評。

読売西沢潤一・初代学長の言葉を引用。
「将来、あの首都大を出たと言われるほどの大学にしましょう」
朝日まとまった量のコメントがついている。
「まったく新しい大学をつくる」という石原知事の号令で生まれた同大には、学生が他大学で取得した単位を認める「単位バンク」など新しい制度が導入される。一方、急激な改革に反発した都立大などの教員たちの多くが学外に去った。「単位バンク」についても具体的な運用方法の検討はこれからという。
日経入学式の風景を描写。
新入生らは「首都大学東京入学式」と書かれた看板の前で次々と記念撮影していた。
都市教養学部法律学コースに入った学生の言葉を引用。「せっかく1期生になれたので『昔の都立大の方が良かった』と評判を落とさないよう勉強を頑張りたい」,「友達とのサークル活動など遊びも楽しみ」
共同事実に則した記述が中心。ただし,「首都大学東京」の特徴に関しては,都の発表の受け売りのみ。
他大学の授業科目も単位認定する「単位バンクシステム」や、企業で学生に就業体験させる「インターンシップ」が特徴だ。
毎日「首都大学東京」の特徴に関しては,東京都の受け売り。ただし首都大は大都市特有の課題の解決に役立つ人材育成を目指す。と一言で要約したのは明快。「インターンシップ」も「単位バンク」も初年度は機能しないことを知らないのか?
東京「出会いの春」というおめでたいタイトルをつけて,4月の入学式の模様を伝えた中に,「首都大学東京」も登場。唯一,高橋理事長の言葉を引用(「今日の熱い初心を、いつまでも持続してほしい。いい大学をつくろうじゃありませんか」)。学生の<希望にあふれた言葉>も2つ引用。

以下は,個々の部分についての簡単な私のコメント。

読売:「将来、あの首都大を出たと言われるほどの大学にしましょう」 「あの首都大を出たのにすばらしい人ですね」という誉め言葉もありますね。
朝日:急激な改革に反発した都立大などの教員たちの多くが学外に去った。かなり正しい論評。ただし「改革」ではなかったので,引用符をつけて欲しかった(「まったく新しい大学」というのも引用符に入る。)
日経:<入学式の光景描写>ありきたりの大学入学式の風景ではなく,「君が代・日の丸」の光景でも描写してもらいたかったのだが。
共同:<「単位バンク」と「インターンシップ」を首大の特徴として説明>「単位バンク」で初年度から他大学の単位を取れることはない。インターンシップも当初の掛け声のように4年間などというしろものではなく,他大学でやっているのと本質的に変わらない。
毎日:設立が都主導で進められたため、都立大の一部教員が首都大教員就任を拒否するなど、準備段階で混乱もあった。「準備段階で混乱あった」とさらっと論評。敢えて言わせてもらえば「混乱しかなかった」のだが。
東京:<都市教養学部に入った2人へのインタビュー> 「都市行政についての研究がしたい。将来は都庁など都の行政に携わる仕事がしたい」という学生をよくもまあ見つけたものだ。 もっとも,「首大」新入生にはこのような希望をもった学生が多いとしたら,恐ろしい。

(1) 「メタ言語的」:言語で言語について語るような。特定の言語表現(=対象言語)の説明に使われる言語をメタ言語(meta-language)と言う。

(2) 「感性」:外界からの刺激を直感的に印象として感じ取る能力。感受性。(北原 保雄編『明鏡国語辞典 携帯版』2003年,大修館書店,P.364)


top[2005/04/11][2005/04/17改訂]