なぜ私は LaTEX を使うのか?
はじめに:(かなりおおざっぱな説明)
TEX とは,そもそも, 数学者のDonald E. Knuth 教授が自分の本を印刷所まかせにしても思ったような組み版ができないことに業を煮やし, 自分で思ったような本を作るために独力で作り上げた組版システムです.現在では,多くの人の努力により, Windows でも,Mac でも, Linux や FreeBSD など多くの環境で動くように移植され,フリーで入手できて使えるソフトウエアです. LaTEX は,TEX を簡単に使えるようにした(TEX の上にかぶさった)ソフトウエアで, Leslie Lamport 氏によって作られたものです.
Q-1: なぜ私は LaTEX を使うのか?
(1) 文書を綺麗に,ほぼ思ったように出力できるから.
例えば, Microsoft Word で作成された日本語やドイツ語の文書を LaTEX で作成した文書と比較してみると,一目瞭然です(断然<きれい>です). 英文やドイツ語だけの文章を Microsoft Word の 英語版やドイツ語版 で出力すると, 比較的見栄えのするものになりますが, 日本語版の Word の出力 はどうも好きになれません.
(2) 考えながら書くのに適しているから.
職業柄,文章を書くことが多いのですが,考えながら書く時に,
書く内容に集中できるか否か,というのが大きな分岐点です.
LaTEX
では,それが比較的容易にできると思います.
簡単に説明すれば,「文章を書く」という作業は,
いったん書いたものを何度も書き直す,という手順を踏むことが多いのです.
そんな時,好きなところに改行をを入れてラフに全体を書いてしまうという作業をします.
これが,市販のワープロソフトではうまくいかないのです.
(3) 文書の保存が,ただのテキストファイルであり, 記憶媒体を少量しか消費しないから.
今では,こんなこと気にする人はあまりいないのかもしれませんが,例えば, 「a」という文字だけを入れたファイルを作ってみます. LaTEX の場合は,エディタで書きますから,そのファイルの大きさは最小限になります. Emacs というエディタで実験してみると (Windows の「メモ帳」でもできます),1バイトのファイルが出来上がります. Microsoft Word 2002 でやってみると, 24,064 バイトのファイルが出来上がりました (単純に24,064倍の大きさのファイルが,どんな文書の場合にもできるわけではありません. 文書の大きさと, Microsoft Word ファイルの大きさは,単純に正比例しているわけではない, という Microsoft Word の不思議な性質によります).
(4) さまざまなマクロが使えるから.
たくさんのマクロパッケージがあります. さまざまな分野のマクロパッケージをインストール(といって,もたいていは, 特定の場所にコピーするだけ)すれば,簡単に複雑な表記が可能になります. 言語学の分野では,私のサイトでも紹介していますが,発音記号のパッケージ, 例文をグロス付きで扱うパッケージ,樹形図を書くパッケージなどがあります. 学会の投稿規定の中には,TEX のスタイルシートがダウンロードできる場合もあり, それを使えば細かい指定をクリアした論文が書けてしまいます. 科研費マクロも有志の人たちに支えられて,続いています.
Q-2: なぜ Microsoft Wordを(積極的には)使わないのか?
(1) 思ったように組版できないから.
例えば,言語学の論文で,例文をグロス付きで入れようとすると, うまく語の位置を調整するのに時間がかかり,さらにその結果, 思ったような配置にならない,ということをよく経験しました.どうしても, Word ファイルで,という場合,しようがなく LaTEX で原稿を書いてから,(手作業で)変換します (TeX2Wordというソフトを購入して使ってみましたが, Windowsでしか動かないこと, 結果が思ったようにならないことから,やめてしまいました).
(2) さまざまな版で互換性が保障されていないように感じるから.
Word ファイルを集めて,編集作業をした時,思うようにならなかったり, 版が違うことによる障害に出会ったことがあります.結局, Word ファイルを集めた後は, 全体をもう一度編集し直さなければならず,大変な手間になります. 近年では,Mac の Word ファイルの画像が, Windows の Word ファイルから見えない,という事件に遭遇し, かなりの時間をロスしました.
(3) ユーザに有償のバージョンアップを迫るから.
一時期,Windows 2000 が出た当時, Word を使っていましたが, 度重なる有償のバージョンアップで,いやになりました. 日本語のWord では,長い間,ドイツ語文字の検索ができなかった, というのもやめた理由の1つです. また,英語のことしか考えていないディフォールトの設定では, ドイツ語の単語が全部赤の波線付き になるのもいやです (英文のスペルチェックを解除する設定をしなければならないわけです). どんどん使いにくくなるバージョンアップにお金を出す気にならなくなった, というわけです.
Q-3: LaTEX は難しいのではないか?
これは,誤解だと思います.基本的には, 自分で使う最低限のコマンドを覚えておくだけで使えます. Word だって,使いこなすのは大変ですよね.しかも, バージョンアップで,メニューの位置が変わったり, 挙動が変わったりすることがあります. LaTEX では,それがありません (特定のマクロパッケージを使う場合,そのマクロパッケージのバージョンの変化で, 挙動が変わることはありますが).
Q-4: LaTEX を使う時に分からないことがあったらどうするか?
インターネット上には, LaTEX に関するさまざまな使い方の紹介サイトがあります.
CTAN(The Comprehensive TeX Archive Network) が,TEX 関連のソフトウエアを集めた総本山です.通常は,混み合っていないミラーサイトを RingServerProject で見つけ,マクロパッケージやフォントなどを取得できます.また, 奥村さんの TeX Wiki, 土村さんのTeXのページ が非常に多くの情報を提供してくれています.ドイツ語を扱うなら, 稲垣さんのページ や, 永田さんのLaTeXのページ が貴重な情報源です.
最近は,優秀な LaTEX の参考書も数多く出版されていますので,どれか一冊,手元にあるとさらに便利でしょう.
Q-5: LaTEX をどうやったら始められるか?
一番簡単なのは,
奥村晴彦著『[改訂第5版]LaTeX2e美文書作成入門』
(技術評論社,2010年8月5日,ISBN978-4-7741-4319-4,C3055,DVD-ROM付,本体3180円+税)M-code 429191
を購入するという手があります.DVD-ROM が付いていますので,それだけでインストールできます.
この本に書いてあることで問題がある部分は,
[改訂第5版]LaTeX2e 美文書作成入門のサポートページ
で公開されていますので,参照するといいと思います.
また,大学の計算機センターには,たいていテフニッシャン(TeXnician)がいますので,
分からないことは,そこで聞く,という手もあります.知っている人に直接尋ねる,
というのもなかなか勉強になります(ついでに,別のテクニックを教わったりして).