|     シュナッピーは,なぜSchnappiか?
 [12/07/05]
  0 イントロ2005年12月7日.今日は,
「ぼくはシュナッピー」というCDの発売日だ.
  「シュナッピー」というのは,ワニの子供の名前.日本で発売になるCD「ぼくはシュナッピー」のオリジナルタイトルは,
  Schnappi, das Kleine Krokodilだ.
  どんなキャラクターかというと,
シュナッピー
(Schnappi)のサイトを見てくれれば,
そのアニメキャラクターと声を確かめられる(お試しあれ).
なんと,ヨーロッパ各国のCD
ランキングで軒並み首位を独占しているのだが,いよいよ日本上陸という感じなのだ.
 
日本では,まだ東京新聞(2005年11月19日)に、
「ドイツ語復権じわり」という記事が掲載され,その中でちょっと紹介されているだけだ.
何でもインターネットを通じて広まったキャラクターということだが,
日本でも同じような現象が起こるか,と言われると,ちょっと「?」
   
今回は,Schnappiというドイツ語の名称が,
どのような<音をまねしたもの>かを考え,
それにあたる日本語の擬音語,擬音的表現から,「シュナッピー」の本当の日本語訳を考えてみる.
 
  
1 Schnappiの語尾の[i]Schnappiという名前は,Schnapp + i
というように作られた,と考えられる.語尾の[i]は,
愛称を作る時に用いられるもので,よく見かける例としては,
Mausiがある.Maus(ネズミ)
なので,「ネズミちゃん」みたいなイメージ.
 
  2 Schnappは何?Schnappは何か,というと,擬音語である.
Langenscheidts Großwörterbuch Deutsch als Fremdsprache.
で調べて見ると,以下のような説明がある.
 
schnapp!Interjektion; verwendet, um das Geräusch wiederzugeben, mit dem
z.B. eine Tür ins Schloss fällt.
 
「鍵がかかる時の音」というと,日本語では,
「カチャ」とか「カチャッ」だと思うのだが,
schnappという音は,
どうもこのような金属音とは無縁らしい.
このschnappという音を取りあげている独和辞書は少ないが,
クラウンでは,
「ぱちん,ぱたん(鍵,ふた)のしまる音.
じょきじょき(はさみで切る音)」
をあげている.鍵やふたの閉まる時に,「ぱちん」というのは,個人的にちょっ
と特殊な気がするのだが...
   
  3 schnappenという動詞は?schnappという音は,
schnappenという動詞も作り出している.
Langenscheidts Großwörterbuch Deutsch als Fremdsprache.で見ると,
次のようになっている.ここでは,意味の説明の部分を和訳し,例文を記してみた.
見ておわかりのように,「すばやい動作であるものを取る」
という意味になっているが,動物が主語になると,
「食べるために口で捕まえる」という意味があることが分かる.
 
1.<(sich³) jn/etw. schnappen>
<人,物>を速い動作で取り,持ったままにする例(1) 
Der Taschendieb schnappte meine Geldbörse und rannte davon.
 
 2. <ein Tier schnappt etw.>
動物が大抵は食べるために速い動作で昆虫などを口で取る
 例(2) Der Frosch schnappte die Fliege.
 
 3.<jn schnappen>(人)を捕まえる
 例(3) einen Dieb, einen Einbrecher schnappen
 
 4. <(sich³) etw. schnappen>〜を(手に)取る
 例(4) 
Los, schnapp dir den Tenisschläger und dann fahren wir!
 
 5. <ein Tier schnappt nach jm/etw.>
動物が速い動作で<人,物>を口で捕まえようとする
 例(5) Der Kinder fürchten sich vor dem kleinen Hund, weil er immer nach ihnen
schnappt.
 
 6. <etw. schnappt irgendwohin> (ist)
あるものが(大抵は固定された)位置に移動する
 例(6) Die Tür ist ins Schloss geschnappt.
 
 7. nach Luft schnappenの形で:「ちゃんと息をしようと一生懸命に試みる」
 イデオム:(ein bisschen) frische Luft schnappen
新鮮な空気を吸うために外へ出る
 
  4 schnappenという動詞の音は?では,動作としてのschnappenという動作の音は,
どのようなものが考えられるだろうか?
上の例文に即して,音を表わす言葉を考えてみよう.
 例文(1):「泥棒が財布をサッと取る」のだが,
「サッ」というのは,音と言えるかというと微妙である.
 例文(2):「そのカエルは,ハエをパクッと食べた」
となり,「パクッ」というのはかなり音を模写していると感じる.
 例文(3):「泥棒・強盗を捕らえる」というのだが,すばやい動作で捕らえる時
の音というものがあるだろうか? 例文(1)とどうように,せいぜい
「サッと捕まえる」しか思いつかない.
「パッと捕まえる」というのもあるかもしれない.
 例文(4):「テニスのラケットをサッと取って,
でかけよう」というのだが,これも「サッサと取る」では音から遠ざかってしま
う.
 例文(5):「その小さな犬はいつも子供たちに向かって口を
パクパクさせるので,子供たちは,その犬をいつも
怖がっていた」と訳してみたものの,どうもnach etw. schnappen
の感じが出ていない気がする.それに,パクパク
というのは,音というよりも様態表現といった感じがする.
 例文(6):「そのドアはパタンと閉まった」
という和訳がよく出てくる.これは,典型的にドアがしまる擬音語としてもよい
だろう.
 例文(7):「口をパクパクさせてあえぐ」
という意味の表現だが,これも本当に音を表わすというよりは,様態を描写して
いる.
 
 まとめると,サッ,
パッ,
パクッ,
パタンあたりが,schnappen
に近い音ということになりそうだ.パクパクという
のは,音から離れてしまった感じがする.
もちろん,ここからいろいろなバリエーションが派生する.
パクンというと,<捕まえて飲み込んだ>感じにな
る.ただ,schnappenは,「動作の速さ」を前提に
するので,「パッターン」のように,
<やや大きめのものが時間をかけて倒れた>ような音は除外されるだろう.
 
  5 Schnappiの音はなに?そうすると,Schnappiの音は何か,ほとんど答えがで
てきた.上の例文(2)のカエルに近い.つまり,パクッ
だ.Schnappiは,ワニ(Krokodil)
なので,その大きな口でパクッっとやるのだ.
パクッという音を元にして名称を考えると,
「パクッちゃん」とかが考えられる.
がしかし,これではあんまりかわいくない.以下は,私の考えたいくつかのバリ
エーション.
 
1.  「パクッちゃん」
2.  「パクッちーん」,
3.  「パクッちゃ」,
4.  「パクたん」
5.  「パッ君」
 と書いて,気がついた.おっと,そのような名前で売り出しているタレントがいたぞ.
彼こそは,シュナッピーだったのだ!
 
  6 おまけSchnappschussというと,英語の
snap shotだ.
つまり,スナップショットという時の,snapが,
ドイツ語のschnappenと対応している.
 
「ハサミで切る時の音」というのは,
英語では,snip snapと言う.
ドイツ語での「ハサミで切る時の音」は,
実は,schnappよりも
schnippの方が近い.
schnipp, schnappというと,
英語の表現と同等になる.
日本語では,「チョキチョキ」という擬音語がこれにあたるが,
日本語は,「チョキ」の繰り返しでしかない.
しかし,「チョキ」では,schnapp
のイメージからは,相当離れてしまう.
   
   
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